言語のリズムと音楽のリズムの交差点

最初の拍が強拍弱拍かを判断する感覚は言語リズムの影響を受ける

音楽には必ず、弱拍と強拍があります ─── 最初に聴こえた拍は、弱拍なのか強拍なのか。その拍を聴いた瞬間、拍が1種類しかないならば、その拍の解釈も1種類しか存在しえません。しかし拍が弱拍と強拍の2種類あるならば、その解釈も2種類存在することになります。その拍の解釈次第で、全く同じ拍の並びに対して、全く異なる解釈が同時に成立することになります。 全く同じ拍の並びに対して、全く異なる譜面表記方法が考えられるということです。

最初に聴こえた拍は、弱拍なのか強拍なのか。その拍の強弱をどの様に判定すべきなのか ─── これは音楽を解釈する上でのとても基本的な要素と言えます。 そしてこの強弱拍の判断方法は、その人が母語として話す言語リズムに影響を受けます。

  • シラブル拍言語
    • 最初の拍を8分音符の弱拍と認識する傾向がある
  • ストレス拍言語
    • 最初の拍を8分音符の弱拍、或いは4分音符弱拍に先行する8分音符弱拍と認識する。
  • モーラ拍言語
    • 最初の拍を必ず1拍目の強拍と認識する。

この問題について以下の事柄を説明します。

  • 観察方法
  • 観察結果の分析に必要な理論
  • 観察結果の分析の方法
  • 観察から得られた仮説

頭子音構成軸 (OSA=Onset Structuring Axis)とは

これまでシラブル拍・ストレス拍・モーラ拍と順番に言語リズムの特徴について見てきました。強拍弱拍の順序には言語によって違いがあります。音節核と頭子音の位置関係が強拍弱拍の順序の向きがあります。このことをここでは、頭子音構成軸 (OSA=Onset Structuring Axis)と呼びます。

  • シラブル拍リズム言語 (拍の順番→ 弱強)
    • 母音を等間隔に発音する。
    • 頭子音最大化原則(MOP=Maximize Onset Principle)
      • 末子音は出来るだけ頭子音としてまとめて発音する。
  • ストレス拍リズム言語 (拍の順番→ 弱強)
    • シラブル拍リズム言語の全ルールを踏襲しルール追加する。
    • アクセントのある母音を等間隔に発音する。
    • アクセントのない母音と子音を縮小してアクセントのある母音の等間隔性を守る。
    • 頭音節最大化原則 (MPOP=Maximal Prosodic Onset Principle)
      • 末音節は頭音節にできるだけまとめて発音する。
  • モーラ拍言語 (拍の順番→ 強弱、又は強強… )
    • 母音ないしは子音が等間隔に並んでいる。
    • 頭子音最小化原則 (MiOP = Minimum Onset Principle)
      • 末子音、及び多重子音は、前シラブルの後方に追従するように新たにシラブルを作成し、それぞれの子音をばらしてから発音する。

この様に、言語によって、頭子音をまとめる位置を決める方向の違いがあります。これが頭子音構成軸 (OSA=Onset Structuring Axis)です。

言語リズム投影理論 ( LRPT Linguistic Rhythm Projection Theory )=頭子音構成軸(OSA)が音楽の強拍弱拍の順序をも決める

再帰的韻律同一性原理 RPEP (Recursive Prosodic Equivalence Principle) によって、頭子音構成軸(OSA) も再帰的に適用が出来るという仮説によって、言語を超えて音楽のリズムにもOSAを適用したものが 律動リズム的頭子音最大化原則(RMOP=Maximal Prosodic Onset Principle) 及び 律動リズム的頭子音最小化原則(RMiOP=Minimum Prosodic Onset Principle) です。

そして言語と音楽だけでなく、更に歩き方やスポーツ格闘などその他の行動原理にも反映させたものをここでは 能動的事前分割主義 ( PD=Proactive Divisionism ) 受動的事後追従主義 ( RA=Reactive Appendism ) と呼びます。

  • シラブル拍/ストレス拍のMOP、及びストレス拍のMPOP
    • 弱強リズム認識が音楽にも適用される
      • 律動リズム的頭子音最大化原則(RMOP)
        • → 能動的事前分割主義 ( Proactive Divisionism )
  • モーラ拍のMiOP
    • 強弱リズム認識が音楽にも適用される
      • 律動リズム的頭子音最小化原則(RMiOP)
        • → 受動的事後追従主義 ( Reactive Appendism )

能動的事前分割主義 (PD=Proactive Divisionism )と受動的事後追従主義(RA=Reactive Appndism )

核 Nucleus頭子音 Onset の位置関係 ── これこそが日本語と他言語との根本的な違いです。 言語における核 Nucleus は、音楽における強拍のような役割を果たします。 各言語が聴覚上で核(Nucleus)のに頭子音(Onset)を配置しているか、あるいはに配置しているかという認知上の傾向の違いが、音楽におけるリズム認識 ── すなわち、強拍の前に弱拍を置くか、後に置くか ── というリズム順序の違いへと反映されるのです。この強拍弱拍の順番認識が言語発音構造上の拍リズム認識と相関関係があるという仮説を、ここでは律動リズム的頭子音最大化原則(RMOP = Rhythmic Maximal Onset Principle ) と呼びます。

核(Nucleus) は、音楽で言うところの強拍の様なものです。

シラブル拍・ストレス拍では音節核と同時に母音を発音します。つまり母音が強拍の様なものです。そして子音は弱拍の様なものです。そして、子音は母音の前後にあります。しかし頭子音最大化原則(MOP=Maximize Onset Principle) によって末子音は全て頭子音にまとめられます。つまり子音は必ず母音の前に配置されます。ここからシラブル拍・ストレス拍は、弱拍を先にくるものとして認識し、強拍を弱拍の後ろとして認識しているのです。

モーラ拍では、音節核と同時に子音を発音します。つまり子音自体が強拍の様なものになります。そして子音が極度に短く、母音を子音の直後に発音します。子音がない場合は、母音を音節核と同時に発音します。 そしてモーラ拍には末子音がなく頭子音最大化原則(MOP=Maximize Onset Principle)を持ちません。その代わりに頭子音最小化原則=MiOP によって全ての子音・末子音をバラバラにしたうえでそれぞれに新たにシラブルを作成し、どんどん後方に追従するように追加して、シラブル数がどんどんと後方に伸びていきます。 つまりモーラ拍には強拍しかありません。全ては後方へと伸びていく強拍の連続なのです。 弱拍を持たないために、後ろに続く強拍と弱拍の区別がつきません

これが弱拍を持つシラブル拍・ストレス拍との大きな違いです。

弱拍が強拍の前にあると認識することの本質は、強拍の位置の予想です。 手を叩く時に、そこにまだない強拍の存在を仮定してその位置を予想しているからこそ、自分の叩く弱拍が強拍よりも前に聴こえるのです。

弱拍の後に続くまだない強拍の位置を予想する為には、現在のテンポがどの程度なのかを予想する必要があります。そしてそれだけでなく次の音符の音価が何なのか…八分音符なのか四分音符なのか二分音符なのか…全てを前もって予想している必要があります。予想であるからこそ、外れることがあります。外れた場合には修正も必要となります。こうして演奏中に強拍の位置を修正しながら弱拍を演奏し続けるという行為を恒常的に行い続ける必要があります。

弱拍が強拍よりも後ろにあると認識することの本質は、受動的な追従です。次に起こる未来のまだ起きていない拍の位置を予想するのではなく、既に起こった既に存在する拍に対して反応しながら行動する受動的に追従して弱拍の位置を決めているため、既に存在する強拍の後ろに弱拍があると感じるのです。

強拍が聞こえてから行動を起こし、強拍が聞こえてから一定時間待って手を動かす。強拍が聞こえてから一定時間待って、次の強拍を演奏する。 ─── 全ての行動が何らかのトリガを聞いてから追従して開始するという原理に基づいているのです。

これは日本人が時間を分割するという感覚を持っていないことを隠喩しています ─── このことは観察によって簡単に証明することができます。その方法は、 二人でペアになって、交互に手を叩くことです。しばらくやってみるとわかりますが、日本人は交互のタイミングを維持することが出来ず同時に収束してしまいます。これは日本人以外の人にはとても容易いことですが、日本人だけが交互手叩きを行うことが出来ないのです。

この追従の感覚は、分割にはなり得ません。何故ならば、次の拍を予想している人は、未来の拍の位置を知って、過去の拍の位置を知っている為に、中間地点を決定することが出来るからです。追従の感覚で弱拍を認識すると、過去の拍の位置だけを知っており、未来の拍の位置を知らないため、中間地点を決定することが出来ません。

ストレス拍・シラブル拍の分割のあるリズム概念をここでは 能動的事前分割主義(PD=Proactive Divisionism) と呼びます。またモーラ拍の分割のないリズム概念をここでは受動的事後追随主義(RA=Reactive Appendism) と呼びます。

分裂拍(Schizorhythmos)と孤立拍(solirhythmos)

強拍と弱拍が存在する為には必ず2拍が必要になります。そこに1拍しかなければ、それは強拍にも弱拍にもなりません。強拍がそこにありそれを分割する拍が表れて初めてそれは強拍と弱拍になります。強拍と弱拍は、ストレス拍リズム・シラブル拍リズムの発音構造自体が持っているリズム構造の本質です。 このリズムは必ず2拍が対になって演奏されるのは、シラブルは必ず頭子音を持っており、母音を持っており、末子音を頭子音につなげて必ず頭子音・母音の順番で二拍に分けて発音するという習慣から来ています。

しかしモーラ拍リズム(日本語)には2拍以上を連続して演奏するという習慣自体を持っていません。モーラ拍リズムの拍は常に孤立しています。

日本の相撲の土俵入りなどを見るとわかるように、日本のリズムは等間隔に連続しておらず、しばしば孤立しています。これはモーラ拍リズムの発音構造から来ていると考えられます。二重子音末子音を持たず、可能な限り1シラブル(1モーラ)1頭子音に分割して、それぞれを単独の拍として発音しようとするモーラ拍リズムは、それぞれの拍が孤立しています。 強拍弱拍という分割の概念ではなく、飽くまでもそれぞれが孤立しており、前拍に追従していくリズムです。

ストレス拍リズム・シラブル拍リズムの音楽に現れる、強拍と弱拍の様に分割が前提となっているリズムをここでは、分裂拍( Schizorhythmos) と呼びます。またモーラ拍リズムの分割されず孤立している拍のことをここでは 孤立拍(solirhythmos) と呼びます。

日本的追従律動タテノリについて

受動的事後追従主義(RA=Reactive Appndism) は、言語だけでなく音楽にも影響を与えていることを見てきました。受動的事後追従主義は音楽だけでなく、音楽を含めた日本人の全ての習慣に深い影響を与えています。これが 日本的追従律動タテノリ です。

例えば、終わらない残業などがこれに当たります。始まる時間はとても正確なのに終わる時間は全く正確ではないことは日本人の悪しき習慣と言われて久しいですが直る気配も直す気配も全くありません。これこそが 日本的追従律動タテノリ の一例です。 コンビニで1人がレジに行くと全員レジに行ってレジが混みだす ─── これも日本的追従律動タテノリ の一例です。1人トイレに行くとみんなで一緒にトイレにいかないと気がすまない。これも日本的追従律動タテノリ です。 広い道端で、鉢合わせになった二人・・・右に避けると右に避ける、左に避けると左に避ける。何度避けてもぶつかりそうになる。日本にいると「お前が見ていないからだ!」と責任転嫁することも可能ですが、海外の人混みでこの挙動は極度に目立ちます。これも日本的追従律動タテノリ の典型的な例です。他にもたくさんの例があります。 日本人の全ての挙動を日本的追従律動タテノリ が支配しています。 ─── このことについては、稿を改めて 日本語が人間の動作の認識に与える影響の仮説 にて詳細に議論します。

ここでは 日本的追従律動タテノリ が音楽のリズムに対して与えている大きな影響について次節以降で見ていきます。そしてこれが日本人の英語音痴の本質に横たわっていることを見ていきます。

韻律ミータ/Metreとは

韻律ミータ/Metreとは、英語の詩吟用語のひとつです。この詩吟の韻律ミータ/Metreは、音楽での強拍弱拍の順序と深い関係があります。ここでは韻律ミータ/Metreとは何か、そしてどのような種類があり、言語に対してどの様な影響を与えているかを見ていきます。

韻律ミータ/Metreの重要性

韻律ミータ/Metreとは英語での俳句の五七五形式の様なもので、英語という言語の非常に重要な表現手法のひとつです。英語のストレス拍リズムの発音構造と密接に絡み合っており、韻律ミータ/Metre を理解することが英語の発音を理解することを言って過言ではない重要性があります。韻律ミータ/Metreは英語を理解する為の最も基礎的な知識であるだけでなく、英語の全知的活動の根源であり、それは英文学だけでなく科学哲学など全ての領域に及び、英語の音楽文化の全ての大きな影響を与えるだけでなく、音楽文化の基幹そのものであり英語の理解の最も基礎的な知識と言えます。ライムは英語の魂です。

英語には重厚な詩吟文化があります。これらの詩吟文化の重要な要素を占めているのは 韻律ミータ/Metre です。 シェークスピアが書いた詩吟の多くは韻律ミータ/Metre が活用されています。 科学の論文や技術解説書などでもしばしば詩吟が引用されて発音上の差が理解できないと理解できないような内容に触れられている事は稀ではありません。

日本では、この韻律ミータ/Metreの重要性は全く認識されていません。英語は、漢字によって形式化される表意文字の言語で、発音が軽視される傾向がありますが、英語は表音文字の言語であり文字自体に発音上の遊びの要素が多分に含まれています。科学論文などにもしばしば発音上の違いがわからないと理解出来ない表現が現れることも稀ではありません。

この英語の学習の一番最初に学ぶべき韻律ミータ/Metreは、日本では、英文科大学院の論文で研究する様な高度な内容として取り扱われています。一番最初に学ぶべき基礎知識を、一番最後に学んでいるのが日本の英語教育と言えます。

韻律ミータ/Metreとの出会いは、幼少期に見聞きするナーザリライム (Nursery Rhyme) から始まります。ナーザリライムは「童謡」と一般的には訳されますが、これも童謡を遥かに超えた深い意味のある文化です。文字も読めない様な幼少期からナーザリライムを聴くことにより、英語のストレス拍リズムの発音構造を深く内面化するという効果があります。

韻律ミータ/Metreの基礎知識=ストレス拍(英語のアクセント)

韻律ミータ/Metre の基礎は、アクセントに始まりアクセントに終わると言って過言ではありません。

アクセントは「強弱」と訳されたり「強勢」「弱勢」と訳されることもありますが、一般的に音の強弱・音の高低とは何も関係がありません。英語(ストレス拍言語)では、アクセントのあるシラブルを長く発音する そして アクセントのないシラブルは短く発音する というルールがあります。そして次のルールが英語の最も重要なルールです。

  • 英語(ストレス拍リズム)では・・・
    • アクセントのある拍をメトロノームの様に一定間隔で発音する。
    • アクセントのない拍を短く発音することでアクセントのある拍の一定間隔を維持する。

次の例を見てみます。

3 Boys play games
4 The boys play games
5 The boys will play games
7 The boys will be play -ing games
8 The boys will be play -ing the games

Boys play games の3シラブルにアクセントがあります。この3つのシラブルが一定間隔で発音されます。そしてこの間にアクセントのないシラブルが短く挟まれます。 これが英語の発音の最も基礎的なルールです。

このルールを韻律ミータ/Metre を学ぶことにより、順番に習得して行きます。

韻律ミータ/Metreには多くの形式がある

韻律ミータ/Metre には30程度の形式があります。それぞれの形式は、強弱の組み合わせ順によって定義されます。そのなかでも最も基礎的な形式は、弱強格(アイエムビック=iambic) と強弱格(トロキーク=trochaic)と呼ばれています。以下は、ウィキペディアの韻律ミータ/Metre について説明する記事の韻律一覧の日本語抄訳です。

二音節韻律( ダイシラブルズ・Disyllables)

Macron and breve notation: 強= stressed/long syllable, 弱= unstressed/short syllable

pyrrhus
iamb
trochee
spondee
三音説韻律(トリシラブルズ・Trisyllables)
tribrach
dactyl
amphibrach
anapaest,
bacchius
cretic,amphimacer,
antibacchius
molossus
四音節韻律(テトラシラブルズ・Tetrasyllables)
tetrabrach, proceleusmatic
primus paeon
secundus paeon
tertius paeon
quartus paeon
major ionic, double trochee
minor ionic, double iamb
ditrochee
diiamb
choriamb
antispast
first epitrite
second epitrite
third epitrite
fourth epitrite
dispondee

童謡ナーザリライム について

韻律ミータ/Metreは英語の基礎的な弱強リズムを全パターン含んでいるため、これに慣れ親しむことによって、ストレス拍リズムのリズムの概念を効率よく身につけることが出来ます。 韻律ミータ/Metreが実際に使われている実例で、もっとも学習に適しているものは童謡ナーザリライム です。

童謡ナーザリライム の歌詞を聴いて聴き取りの練習をしたり、覚えて一緒に歌える用にしたりすることで、ストレス拍リズムに特徴的なリンキングや弱拍先行などのリズムを体得していくことが出来ます。

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