多次元グルーヴ空間理論

リズムを明確かつ精密に認識するための基礎的な技術──それが「グルーヴ空間理論」です。この理論は、オフビートカウント理論を土台として作られたもので、様々なジャンルの音楽のグルーヴを解析できる様に拡張されたものです。世界中のリズムが持っている 分裂拍(Schizorythymos) の本質を様々な方法を使って把握する為に汎用可能な理論を提供します。

多次元化とは

リズムという情報の本質は多次元構造にあります。多次元の構造を持った情報が時間軸という1次元数直線上に展開されたものといえます。 私達が聴いている音楽のリズムは、リズムが持つ多次元立体図形が小節・拍・連符そして、マイクロタイミングなどの時間軸 に展開されたものです。つまりリズムは多次元情報の1次元投影といえます。

それはあたかも、折り重なった木々が路面に影を落とす様子とにています。

https://x.com/ats4u/status/1754121576474440034?s=46

あるいは、大きな雲が多層になって地表に光と影の模様を作り出す様子とにています。

https://x.com/ats4u/status/1754121950614655124?s=46

私達が住んでいる3次元以上の次元数を持った空間での図形を3次元(立体)や2次元に投影すると、とても不思議な動きをする図形を見ることが出来ます。 例えば次の図形は超立体(テサラクト=Tesseract)と呼ばれています。

リズムの上でもこれと似たような現象が起きています ─── 言い換えると、音楽のリズムの上にどれだけ多くの次元を持った干渉模様と幾何学模様を作り出すかが、グルーヴするための鍵とも言えます。

具体的に言うと、数字の桁を順番に増やしていくような形になっています。

次のような4拍のリズムがあったとします。

1 2 3 4

このリズムが4回続くとします。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

この時、2次元の図形を1次元に投影したものと考えることが出来ます。何故なら4回続くパターンは次のような正方形を1次元に展開したものと同じと考えられるからです。 そのことが縦に折り返してみることでわかります。

1 2 3 4
2 2 3 4
3 2 3 4
4 2 3 4

縦に折り返して並べ替えると、二次元の図形である正方形を一次元の直線として投影したものだということがわかります。

次にこのリズムが更に4回続く場合を考えます。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

これは上下方向にに並べることでもともとは立方体だったものを1次元に並べ替えたものだったことがわかります。

1 2 3 4
2 2 3 4
3 2 3 4
4 2 3 4
2 2 3 4
2 2 3 4
3 2 3 4
4 2 3 4
3 2 3 4
2 2 3 4
3 2 3 4
4 2 3 4
4 2 3 4
2 2 3 4
3 2 3 4
4 2 3 4

多次元グルーヴ空間理論とは

グルーヴ空間理論とは、拍の数え方を拡張する為の理論です。 これまで ディヴィジョン(拍 =4分音符)サブディヴィジョン(分拍=連符) に対して数を数える方法を御説明致しました。このディヴィジョンを多次元化 を使って4つの グルーヴ空間に拡張することにより、幅広いグルーヴの理解を行うことができる様にする理論がグルーヴ空間理論です。

グルーヴ空間理論では、ディヴィジョン・サブディヴィジョンを1つの グルーヴ空間として扱います。

そしてこのグルーヴ空間を多次元化を使って拡張しマクロディヴィジョン(小節)マイクロディヴィジョン(ずれニュアンス) という2つの新しい グルーヴ空間を定義します。

一般的にグルーヴと言われているリズムは、小節自体も拍とみなし小節にも弱拍先行を適用することによって説明出来るという マクロディヴィジョン・グルーヴ空間 という概念を御紹介致します。

次に、一般的にレイドバック・ラッシュ・ドラッグ等々と呼ばれている音符のずれによるニュアンスの表現は、譜面上に表される サブディヴィジョン(分拍) よりも更に細かい音符 マイクロディヴィジョン(微分拍)空間 が存在すると仮定し、これらに弱拍先行を適用することで合理的に説明できる ─── という理論を御紹介致します。

音符のずれによるニュアンスの表現は、ディヴィジョン(拍)マクロディヴィジョン(小節=合拍) とみなし サブディヴィジョン(連符=分拍)をディヴィジョンとみなした時のサブディヴィジョンによる弱拍先行リズムとして表現が可能になる ─── グルーヴ空間転送 という理論を御説明致します。

これらの理論を使うことで、グルーヴ習得の為の具体的な練習方法を考案したり、DAW上で機械的にグルーヴを再現することが出来るようになります。

4つのグルーヴ空間

これまでオフビートカウントで拍を数えるにあたって、4分音符1つを1拍とする単位(ディヴィジョン)で数えて来ました。

そして4分音符を分割して出来る8分音符や3連符などの拍(サブ・ディヴィジョン)については、数字ではなく の3つの 記号/アルファベット を割り当てることで数えてきました。

このディヴィジョン・サブディヴィジョンのことをここではグルーヴ空間 と呼びます。 通常のリズム理論ではこのグルーヴ空間は、ディヴィジョンサブディヴィジョン の2つが存在します。

グルーヴ空間理論では、この2つのグルーヴ空間を多次元化という処理を加えることにおって拡張し4つのグルーヴ空間を定義します。

  • 4つのグルーヴ空間
    • マクロ・ディヴィジョン(小節=合拍=Macrodivision)
    • ディヴィジョン (4分音符=拍=Division )
    • サブ・ディヴィジョン (8分音符等々の分音符=分拍=Subdivision )
    • マイクロ・ディヴィジョン(音符では書き表せない拍=微分拍=Microdivision)

そしてこの4つのグルーヴ空間の特徴を説明致します。

ディヴィジョンとは

これまで拍を数えるときは1234、1234と小節を繰り返しながら、その各小節内の拍数を数えて来ました。 この小節を分割して出来る数を ディヴィジョン と呼びます。

次の表は、ディヴィジョンの例です。

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4

多次元化とは

多次元化とは、次の様に数を数えるときの桁数 を増やすことをいいます。前章の例で挙げた様にディヴィジョン(拍数)を数える際、次の様に小節数を同時に数えると次のようになります。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

この様に拍数を一定の周期で数える時に、その周期の先頭拍で周期が来た回数(小節数)を数えることを 多次元化と呼びます。又は、これまでのオフビートカウントが発展してきた歴史的経緯から 小節数入りカウント 呼ばれることもあります。

マクロディヴィジョンとは

マクロディヴィジョンについて説明します。

ディヴィジョンを多次元化する

ここでディヴィジョン自体を多次元化すること考えてみます。次の図は前章で見た図と全く同じディヴィジョンの図です。

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4

このディヴィジョンを多次元化すると次の図になります。これも前章で見た図と全く同じ図です。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

このように多次元化されたディヴィジョンのことを マクロディヴィジョン (Macrodivision) と呼びます。

マクロディヴィジョンを多次元化する

このように、小節数入りで数えている時、ある数の小節のまとまりに対して更にもうひとつ次元を増やして数えると次の様になります。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

このように数えることをマクロディヴィジョンの多次元化 と呼びます。また多次元化されたマクロディヴィジョンを 二次元マクロディヴィジョン(Double-Layered Macrodivision) と呼びます。

多次元化したマクロディヴィジョンをもう一度多次元化する

既に多次元化したマクロディヴィジョンを更に多次元化することも可能です。 次の様に更にもう一次元増やすことで三次元マクロディヴィジョン(Triple-Layered Macrodivision) を構築できます。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
多次元化したマクロディヴィジョンの呼び方

多次元化したマクロディヴィジョンの次元の呼び方を説明します。

一次元マクロディヴィジョン=第一次元

次の様に数えることを一次元マクロディヴィジョン(One-Dimensional Macrodivision)と呼びます。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

そしてここでは、この次元を 第一次元 と呼びます。

二次元マクロディヴィジョン=第二次元

次の様に数えることを二次元マクロディヴィジョン(Two-Dimensional Macrodivision) と呼びます。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

そしてここでは、この次元を 第二次元 と呼びます。

三次元マクロディヴィジョン=第三次元

次の様に数えることを三次元マクロディヴィジョン(Three-Dimensional Macrodivision) と呼びます。

1 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
2 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
3 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4
4 2 3 4 2 2 3 4 3 2 3 4 4 2 3 4

この3つ目の次元を第三次元と呼びます。

サブディヴィジョンとは

サブディヴィジョンとは、声出しカウントを行う時に数字の間にいれるアルファベットと記号のことです。

1 e & a 2 e & a 3 e & a 4 e & a

サブディヴィジョンをカウントする時は数字ではなく、記号(&)とアルファベットを使います。ここで使われる記号アルファベットは次の通りです。

  • a ( アー )
  • & ( アンド )
  • e (イー)

ここではこのサブディヴィジョンを多次元化します。

サブディヴィジョンの多次元化する

サブディヴィジョンの多次元化は、これまで数字に対して行っていた多次元化を、記号アルファベットに対して行うことを言います。

次のようにサブディヴィジョンがあったとします。

1 e & a

この通常のサブディヴィジョンはいわば一次元のサブディヴィジョンということができます。

一次元サブディヴィジョンの多次元化

この 1 e & a を 4回繰り返して読み、更に先頭の記号アルファベットを 1 e & a の順番で入れ替えることにより、あたかも一次元に並んでいる記号アルファベットを、二次元化した上で再度一次元に投影展開するのと同じ処理を行うことが出来ます。

1 e & a
e e & a
& e & a
a e & a

横に並べると次の様になります。

1 e & a e e & a & e & a a e & a

この様にサブディヴィジョンの記号アルファベットを多次元化することをサブディヴィジョンの多次元化 と呼びます。

多次元化したサブディヴィジョンをもう一度多次元化する

既に多次元化したサブディヴィジョンを更に多次元化することも可能です。 次の様に更にもう一次元増やすことで三次元マクロディヴィジョン(Triple-Layered Macrodivision) を構築できます。

1 e & a e e & a & e & a a e & a
e e & a e e & a & e & a a e & a
& e & a e e & a & e & a a e & a
a e & a e e & a & e & a a e & a

この表を立体的に並べてみると次の様になります。

1 e & a
e e & a
& e & a
a e & a
e e & a
e e & a
& e & a
a e & a
& e & a
e e & a
& e & a
a e & a
a e & a
e e & a
& e & a
a e & a

多次元化したサブディヴィジョンの呼び方

一次元サブディヴィジョン=第一次元

次の様に数えることを一次元サブディヴィジョン(One-Dimensional Subdivision)と呼びます。

1 e & a
二次元サブディヴィジョン=第二次元

次の様に数えることを二次元サブディヴィジョン(Two-Dimensional Subdivision)と呼びます。

1 e & a e e & a & e & a a e & a
三次元サブディヴィジョン=第三次元

次の様に数えることを三次元サブディヴィジョン(Three-Dimensional Subdivision)と呼びます。

1 e & a e e & a & e & a a e & a
e e & a e e & a & e & a a e & a
& e & a e e & a & e & a a e & a
a e & a e e & a & e & a a e & a

メタディヴィジョンとは

メタディヴィジョンとは、サブディヴィジョンよりも細かい音符の音価領域を表すグルーヴ空間のひとつです。譜面に書き表すことができない細かなタイミングニュアンスをメタディヴィジョンという仮想のグルーヴ空間として表します。

メタディヴィジョンは、しばしば ポケットレイドバックラッシングドラッギングプッシュ 等々と呼ばれるものと同じものです。 メタディヴィジョンは細かすぎる為、意識的に数えることが出来ません。 しかしこのメタディヴィジョンが音楽が持つ全てのニュアンスの鍵を握っていると言って過言でなく、音楽で最も重要な位置にあるリズム要素と言えます。 メタディヴィジョンは、プレーヤー及びリスナー双方の無意識の動きを制御する本質といえます。 メタディヴィジョンの制御の良し悪しひとつで、音楽はこの世のものとは思えない美しさを持って響くこともあれば、どんなに高度な作曲技法を持って作られた曲であろうと無関係に、無惨にも人の心に墨汁を流しこんだような不快感をもたらすこともあります。 ─── メタディヴィジョンは、音楽の全てと言って過言ではありません。

メタディヴィジョンの定義

メタディヴィジョンは細かすぎる為にはっきりと数えることが出来ません。しかしここで仮説としてメタディヴィジョンを以下の通りに定義します。

  • メタディヴィジョンは、サブディヴィジョンを多次元化する事で定義できる。
  • メタディヴィジョンは、マクロディヴィジョン及び、サブディヴィジョンと同じ性質を持っている。

グルーヴ空間次元転送について

ディヴィジョンを多次元化したものがサブディヴィジョンであり、かつメタディヴィジョンがサブディヴィジョンを多次元化したものであるならば、それぞれを入れ替えてもリズムは成立する筈です。

  • ディヴィジョン → マクロディヴィジョン
  • サブディヴィジョン → ディヴィジョン
  • メタディヴィジョン→ サブディヴィジョン (❗❗❗)

つまり

  • ゆっくり演奏すると、メタディヴィジョンはサブディヴィジョンになり、サブディヴィジョンはディヴィジョンになり、ディヴィジョンはマクロディヴィジョンに入れ替わるので、メタディヴィジョンも数えることができる。
  • マクロディヴィジョン・サブディヴィジョンでの多次元化での様々な複雑なパターンに慣れ親しむことで得られた感覚は、そのままメタディヴィジョンでも応用することが出来る。
  • 特にポケットは、メタディヴィジョンでのスコッチスナップである。
    • → その他の遅れることで生まれるニュアンスは全てここに含まれる。
  • 特にプッシュは、メタディヴィジョンでの弱起である。
    • → その他の早いまることで生まれるニュアンスは全てここに含まれる。

このように全てのグルーヴ空間をひとつずらすことで、認識が難しいメタディヴィジョン・グルーヴ空間を認識しやすくすることをここでは グルーヴ空間次元転送 と呼びます。

このグルーヴ空間次元転送がこのハイパーグルーヴ理論の最も重要な理論と言って過言ではありません。

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