多層弱拍基軸律動 理論で得られるもの
音楽の拍には弱拍と強拍があります。実はこの弱拍と強拍というものの認識の仕方は、母国語とする言語によって全く違うのです ─── これは音韻学の「モーラ拍リズム」「ストレス拍リズム」という発音上のリズム特性と深い関係があります。まず弱拍と強拍が生まれる理由を言語学的に解析した上で、音韻学を用いて分析した結果生まれた「基軸拍」という概念を通して、グルーヴの本質を多角的に探ります。
ここでは次の内容を説明します。
- グルーヴとは何か
- 音楽のグルーヴと英語のリスニングの関係
- 強拍弱拍とは何か
- 母国語によって強拍弱拍の認識に違いが生じること
- 強拍弱拍には音楽・言語の両方に共通の階層があること
- 強拍弱拍の階層には 再帰性 があること
- 強拍弱拍階層の再帰性が音楽と詩吟の読み方に大きな影響を与えていること
- 強拍弱拍の多層階層の分析手法
この本の読み方
まずその人が母国語として話す言語が持つ発音構造によって、その人の音楽に対するリズムの認識が大きく影響を受けることを見ていきます。次に音韻学的見地から分析することで明らかになった言語が持つ3つのリズム構造=シラブル拍、ストレス拍、モーラ拍の特徴を学びます。
そしてこれが強拍弱拍という概念と関連していることを見ていきます。次にストレス拍でこの強拍弱拍という概念が多層構造になっていることを見ていきます。そして強拍弱拍とは何かを掘り下げ、弱拍と強拍の多層構造の存在について見ていきます。そしてこの多層構造がメロディを歌う時の配置の方向性に大きな影響を与えることを見ていきます。そして最後に、これが人間の時間認識の方向性に大きな影響を与えており、更にこれが人間の動きの認識自体に影響を与えていることを見ていきます。
グルーヴとは英語そのもの
英語は、音韻学で ストレス拍リズム に分類されています。ストレス拍リズムの言語は『アクセントのあるシラブル(ストレス拍)を一定時間ごとに発音しなければならず、アクセントのないシラブル(非ストレス拍)は弱く発音したり省略したりしなければならない』という発音上のルールを持ちます。このルールが英語という言語を意味のある文章として聴き取る為に重要な役割を持っています。
つまり、このストレス拍リズムがグルーヴの正体です。
ストレス拍リズムには、俳句と同じ様に重厚な詩吟文化があり、言語自体が持っているリズムを探求し発展してきた長い歴史を持っています。この詩吟文化の上に、R&Bやラップなどのアフリカ系アメリカ人の文化が発展しました。これが更にジャズに多大な影響を与えました。そしてこのジャズが、ブルースやロックンロール・ロック・ハードロック・ヘビメタが生まれ、世界中に飛び火して世界中の音楽に影響を与えています。
音楽と語学を繋げる
この多層弱拍基軸リズム理論は、音楽でグルーヴが起こる条件を理論的に説明した上で、何故人によって音楽のグルーヴの認識い違いが生まれるのかを考察します。そしてこのリズム認識の違いが生まれる理由に関して、この音韻学を使って説明します。この多層弱拍基軸リズム理論は、グルーヴを習得する為の理論・オフビートカウント理論が成立することを示す基礎理論となります。
グルーヴを顕在意識化する
つまり多層弱拍基軸リズム理論は、日本人が何故グルーヴしないのかを理論的に説明し、どうやったら日本人が後天的にグルーヴを習得する事ができるのか、その練習方法に関して理論的な予想を与えます。
そしてその理論的予想に基づいて考案された訓練方法がオフビートカウント練習法です。
語学は聴き取ってから理解する
人は言語を、理解したから聴き取れるのではなく、聴き取れるから理解するものです。例えその言語が何語かがわからなくても、発音構造が聴き取れていれば、最低限何を言っているかだけは聴き取ることが出来ます。聴き取ることが出来たものから、それが何を意味する言葉なのかを推測していくことが出来ます。
語学を習熟する上で、この「意味がわからなくても、何を言っているかはわかる。」という状況を作ることが最も大切なことです。
言語リズムの構造上の問題から、ストレス拍リズム(英語)やシラブル拍(スペイン語・フランス語)から、モーラ拍リズム(日本語)に切り替えることは容易でも、モーラ拍リズムからシラブル拍リズム・ストレス拍リズムに切り替える事は極度に困難ということが明らかになっています。
人の耳が持っているリズムのモードを、モーラ拍リズムからストレス拍リズム・シラブル拍リズムに切り替えることができれば、意味はわからなくても聴き取ることができるという状態に到達出来ます ─── この状態を作ることができれば、英語が理解できる様になるのは時間の問題です。
そしてこの意味はわからなくても聴き取れる能力が、音楽でグルーヴする能力と全く同じ能力だということをこの本で見ていきます。
音楽のグルーヴで英語リスニング力は伸びる
もしも読者の貴方が英語学習者でしたら、恐らくリスニングに対して問題意識を持っているのではないでしょうか ─── 日本人は英語が聴き取れません。日本人は英語がわかる様になるために義務教育で10年以上の月日を費していますが日本人はほとんどの場合英語が理解できません。努力の末に英語を読むことが出来るようになっても、映画を字幕無しで見て理解したり、実際に会話したりすることは出来ません。そんな頭でっかちな英語教育が批判され、実践英会話の重要性が叫ばれたのももう20年以上前の話です。しかし20年たった今も状況は全く変わっていません。
多層弱拍基軸リズム理論 は、この残念な状況に一石を投じます。
英語リスニングで音楽のグルーヴ力が伸びる
もしも読者の貴方が音楽の演奏者でしたら、恐らくグルーヴに対して問題意識を持っているのではないでしょうか ─── 日本人ミュージシャンは全くグルーヴしません。 これが 縦乗り です。縦乗りとは元々、日本のジャズ演奏者の間で使われていた俗語でした。ジャズ独特なスイング感のないグルーヴのない日本人のジャズの演奏は俗に『縦乗り』と呼ばれて常に悩みの種でした。グルーヴ感はジャズの醍醐味です。グルーヴ感のないジャズは正に画竜点睛を欠く価値のない音楽です。しかし日本人がグルーヴしない理由をはっきりと理解し明確に説明できた人は存在しませんでした。
日本人ジャズ演奏者の間で日本人のリズムの問題 縦乗り は、グルーヴしたいのにどうやってもグルーヴ出来ない日本人ジャズ演奏者の心にトラウマを生み出しました。ジャズ演奏者の間でリズムの問題を話題として出すだけで激昂する人が大勢存在するなかで、もはやタブーとしてみな腫れ物に触れるような扱いをしてきました。
日本には世界有数の巨大なジャズ演奏者コミュニティがあります ─── にもかかわらず世界中の誰も日本人ジャズを聞かない。日本には世界有数の巨大なジャズのリスナコミュニティがあり、ジャズ市場は世界最大規模と言われています。そんな巨大なジャズ市場の誰も日本人ジャズを聴いていません ─── これはジャズ界最大悲劇の悲劇を通り越して、もはや喜劇です。
多層弱拍基軸リズム理論 は、この状況に一石を投じます。
目次